コラム:黒田日銀に追加緩和を迫る2つの「ずれ」=上野泰也氏
2014年 03月 20日 11:01 タオバオ代行
黒田東彦日銀総裁はかねてより市場の一部にある早期追加緩和期待をけん制する発言を行ってきたが、今月11日の金融政策決定会合後の記者会見でもそうした姿勢を改めて示していた。追加緩和に踏み切るつもりが、日銀には本当にあるのだろうか。
昨年4月4日に「量的・質的金融緩和」を導入した際に「戦力の逐次投入はしない」として白川方明前総裁時代の手法との決別を宣言している以上、できるだけ追加緩和はしたくないというのが日銀の基本的な考え方であり、本音でもあるだろう。
「バズーカ砲」を撃ってから1年も経たないうちに追加緩和を実施するというのでは、今回の緩和自体が失敗した、あるいは失敗しかけているとみなされる恐れがある。それは、今の日銀が重視する企業や家計の期待への働きかけにも悪影響が及びかねない話である。市場の「雑音」にもかかわらず追加緩和に動かないでいるうちに「物価安定の目標」2%が淡々と実現するというのが、日銀にとってのベストシナリオだろう。
だが実際には、筆者を含む多くのエコノミストが、日銀が公約している2年程度での物価上昇2%の実現はきわめて困難だとみている。また、4月には5%から8%への消費税率引き上げという、景気を下押しする大きな要因も控えている。日銀が掲げるシナリオと現実の経済情勢の「ずれ」に促される形で、日銀はやむなく追加緩和に動くことになるのだろう。
<実施は最速で6月、遅くとも10月か>
そうした「ずれ」として想定されるものは、大きく分けて2つある。
1つは、景気面の「ずれ」である。具体的には、消費税率が引き上げられた後の景気下振れリスクの増大である。
政府・日銀は増税後の景気動向について、消費税率が前回引き上げられた1997年当時と比べて日本の金融システムの安定度が高いことなどを根拠に、かなり楽観的にみている。だが、輸出が不振であるなど、増税後は景気の「けん引役」が不在となる可能性が高い。人手不足や資材高騰によって、予算計上された公共事業の景気刺激効果が通常より弱まっているという事実もあり、4月以降の景気下振れリスクは軽視できない。夏から秋に政府が追加経済対策の策定に動き、これと連携する形で日銀が追加緩和を決定するというシナリオが浮かび上がる。
もう1つは、物価面の「ずれ」である。具体的には、消費者物価指数(CPI)コアの前年同月比(除く消費税率引き上げ要因)のプラス幅が、日銀のシナリオに反して徐々に縮小していき、2%がだんだん遠ざかっていく場合である。
日銀は、2年程度での物価上昇2%の実現が難しくなったことをやむなく認めた上で、金融政策に「必要な調整」を加える、すなわち追加緩和を実施するという手順に追い込まれるだろう。こうした物価面のシナリオ修正は、遅くとも10月の展望リポートまでには行われるだろうと筆者はみている。
ただし、物価上昇2%の実現が今の日銀には最大の責務になっているので、上記2つの「ずれ」のいずれがきっかけになる場合でも、追加緩和に動く場合の説明は、物価目標が軸になる可能性が高い。すなわち、景気面の「ずれ」で動いた場合でも、需給ギャップ縮小の遅れによって物価目標である2%に到達するまでの時間が従来の想定よりも長くなったから追加緩和に動いた、という説明になると予想される。
日銀が追加緩和をアナウンスするタイミングについては、消費税率引き上げの直後(4月や5月)ではないというのが、筆者の変わらぬ考えである。日銀は、駆け込み需要の反動などによる4―6月期の景気の落ち込み(大幅な前期比マイナス成長)をシナリオの中に織り込んでいる。
景気面の焦点はその後、夏から秋に景気がリバウンドする力の大小であり、物価面では消費税率引き上げ要因(日銀の試算で2%ポイント)を除いたCPIコア前年同月比のプラス幅の行方である。それらに関連する景気・物価指標がある程度入手できないと、エビデンスを伴う景気・物価シナリオの修正に日銀としては動くことができず、したがって追加緩和に動くこともないというのが、自然な見方だろう。
追加緩和の具体的な内容については諸説あるが、筆者の場合、これまでと同じマネタリーベースの年60―70兆円ペースでの上積みを続けながら、バランスシートの内訳である長期国債と上場投資信託(ETF)の14年末の残高見通しを上方修正するのではないかと予想している。
長期国債は10兆円上積みして200兆円、ETFは5000億円から1兆円上積みして4.0―4.5兆円になるだろう。仮にETFについて1兆円上積みする場合、年間買い入れ額は当初決定の1兆円から倍増することになり、海外投資家にアピールできる「2倍」というキーワードを対外公表文で使用できることになる。
また、追加緩和のタイミングについては、日銀が市場に対して若干のサプライズを狙う場合でも、最速で6月(7月に行われる展望リポート中間評価の直前)、遅くとも10月の展望リポート発表時までには実施されるのではないかと予想している。
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